3).ひねくれ

「オーストリアー」
「・・・・・」
「オーストリアさぁんー」
「・・・・・」
「オーストリアってば」
「うるさいです。お黙りなさい」
客間のテーブルを挟んで向かい合った男を一瞥もせず、オーストリアはぴしゃりと言い放った。
きつい物言いを物ともせず、すっかりくつろいだ姿勢でニヤニヤと笑うのはフランスである。
そのふざけた笑いを見るのを避けるように、オーストリアは残り少ないティーカップの中身を飲み干した。
「お客さんに対してその態度はないんじゃないの?」
「ここにはもてなすべきお客人はいませんから」
「ああ、なるほど。俺とお前の仲だろ☆ってことだな」
「相変わらず頭に虫が沸いてますね」
「そーんな口聞いていいのかなぁ、お貴族様?」
フランスはそう言って、手に持った紙を見せ付けるようにひらひらと揺らす。
見たことのある封筒と筆跡に、オーストリアは黙って眉間にしわをよせた。
「お友達になって、って言ったのはそっちだったよねー」
「・・・・・」
この上なく楽しそうなフランスの様子に、オーストリアの機嫌がますます急降下していく。
長年そりが合わず、敵対ばかりしていた相手に優位に立ったことが、嬉しくて仕方ないらしい。
オーストリアの心底嫌がる顔が、さらにそれを助長しているのもあるだろう。
「・・・そうですね」
「ん?」
手に持ったカップをテーブルに置いて、オーストリアは静かに口を開く。
未だ口元を緩めたままのフランスをまっすぐに見やり、にっこりと、それはそれは極上な笑顔を作った。
「私の何よりも大切な友人である貴方に、このような態度は失礼でしたね。心からお詫びします。どうか貴方の寛大な心と私達の美しい友情に免じて許していただけませんか、我が親友」
「・・・・・」
オーストリアの歌うような口上に、フランスはぽかんと口を開けた。
それから、苦虫を噛み潰したような顔をして力なく呟く。
「・・・お前、そんな体当たりの嫌味はやめろよ・・・」
「お互い様です」
心底嫌そうな顔をするフランスに、オーストリアはすました顔で返しながら、空いたカップの片方にだけお茶のおかわりを注いだ。



07/10/29