1).幸いなる
「今日からよろしくお願いします」
「はいはい」
興奮か武者震いか、少し上ずった私の声。
ぽんと返された返事は、からかうように笑んでいた。
傍らに立つのは、よく見知った人。
きっちりとした服に、髪も撫で付けた隙のない格好をしていながら、どこかやわらかい優美な印象を受ける。
そんな存在が、今私のいるこの国自身であることを誇らしく思う。
そして、この瞬間から私が彼の上司となるのだ。
胸の内からふつふつと湧き上がるこの興奮を、どうして止められるだろう。
「・・・・・私、がんばりますね」
「ええ」
ひどく、頬が熱い。
きっと今、私の頬は熟しきった林檎よりも赤いに違いない。
「この国に私のすべてを捧げます」
熱に浮かされた頭で、それでも、これだけは言わなくてはと、もつれる舌で必死に紡いだ。
「私のすべてをもって、あなたを守ります」
じっと、こちらに注がれる視線を身体全体で受け止める。
目の前の彼の顔が、なんとも言えない感情に歪んで。
そして。
「・・・・・我が女帝陛下に幸いあれ」
優しくとられた私の手に、祝福のキスが落とされた。