あなたを信じられなかった代償だよ

人でごった返す市場で買い物をした帰り。
重くてかさばる荷物にうんざりしながら、人通りの少ない横道へとそれる。
その先で見慣れた赤をみつけて、あたしは思わず声をかけた。
「なにしてんの、ルーク?」
「あれ、アニス?」
たくさんのシャボン玉を体中にまとわりつかせて、地面に座り込んだルークが振り向く。
手には小さなピンクのボトルと、同じ色のストロー。
あたしの目線に気づいたのか、ルークは少しばつの悪そうな顔をした。
「えーと、向こうで菓子を売ってた露天で一緒に売ってて、おもしろそうだなぁって…」
「で、買っちゃったの?もぉー無駄遣いするなって言ってるのに〜!」
「う、ごめんって」
叱られて、しゅんと眉を下げる。
そんな顔や行動がいちいちこどもっぽくておかしい。
まぁ、中身は本当に7歳児なんだから、しょうがないと言えばしょうがないんだけど。
「でも、これきれいだろ」
言いながらルークはストローに口をつけた。
勢いよくでてきたシャボン玉が、空に向かって飛んでいく。
ふわり、ふわり。
ゆっくりと空を浮かぶソレは少しづつ降下して。
地面へと着く前にぱちんっとはじけた。
儚く消えていくその姿が、今はもういない誰かと目の前の存在に重なって。
「・・・・・」
「アニス?」
黙り込んだあたしに、ルークはいぶかしむような声をだす。
答えもせずに黙ったまま、ずんずんとルークに近寄っていく。
そのまま、背中合わせになるようにルークの後ろに座り込んだ。
布越しにじんわりと伝わる体温。
ああ、よかった。
この人は、まだ、ここにいる。
「…でも、消えちゃうじゃない」
呟いたあたしの言葉に、ルークが驚いたようにあたしの方を向く気配がした。
何か言おうか思案するような間のあと、それでも何も言わずにルークは前に向き直った。
そのまま、またストローに口をつける。
ふぅーっと吐き出される息と一緒に、勢いよくあらわれるシャボン玉。
たくさんのソレが、あたしたちの周りを取り囲む。
青い空の下、きらきらと光を反射して。

ああ、キレイだなって思った。

そう思ったら、もう我慢できなくて。
ルークが見ないふりをしてくれているのをいいことに、思いっきり泣いた。
ふっと耳によみがえるやわらかでやさしい声音。

『ルークは本当はやさしい人なんですよ』

ああ、本当に、その通りでした、イオンさま。
だけど、本当はやさしくなんてしてほしくないんです。
きれいなものや、やさしいものは、いつだって儚く消えてしまうから。
残るのはいつだって、あたしみたいな汚くてずるいもので。

やさしくなんてしないでよ。
お願いだから消えないで。

浮かんでは消え浮かんでは消えるシャボン玉。
声にできない思いごと、あたしは涙を流し続けた。



06/6/5
あなたとふたり、埋もれる世界のための五つの絆/お題配布元:遙彼方