不必要なものを必要とするあなたがわからない

寝台に散らばる、赤い髪。
今は堅く閉ざされた、翠の瞳。
それらすべてに感じた感情がひっくり返されたのはいつのことだったろう。
今は視線の先で一人眠る、見慣れたこども。
ルーク・フォン・ファブレ。

いつだって傍にいた、真っ白なルークを一から育てた。
(だって俺はおまえの使用人。)
わがまま放題なルークに苦笑いしながらも付き合った。
(だって俺はおまえの幼馴染。)
いなくなったルークを探して、いつの間にか世界中を巡っていた。
(だって俺はおまえの旅の仲間。)
微かに、けれど消えることなく、その根底にあったのは。
(だっておまえは憎い仇の息子。)

いつだって理由が必要だった。
おまえの傍にいる理由が、おまえを憎む理由が。
それはそのまま、俺が生きるための理由だったのだけれど。

「ぅ…んっ」
寝台に沈んだ身体がびくんと跳ねる。
ぎゅっと眉間に皺をよせ、薄く開いた口元から漏れ出るうわごと。
微かに聞こえるそれは、どうやら謝罪の言葉のようで。
「ルーク」
名を呼び、握りしめられた手にそっと自らの手をのせる。
見下ろす視線の先で、自らを守るかのように、身体を縮める小さな姿。
眠りの中でさえ、自らの罪から逃れられないおまえが哀れで。
どうすることもできない自分が、ただやるせなくて。

どうか、このこどもにやさしい夢をと。
そして、できればあかるい未来をと。

そう願ってしまうのには、何の理由も必要なかった。



06/6/5
あなたとふたり、埋もれる世界のための五つの絆/お題配布元:遙彼方