あなたの信じていたものは間違っていたよ、と見せ付けてやりたい

過去に戻れるものならば、生まれたばかりの自分を殺してしまいたい、そう言ったことがあった。
それでは自分は生まれない、生まれたことを感謝する、と彼は言った。
ここにいたってまだ彼はそんなことをいうだろうか。

「ジェイド?どうしたんだ?ぼーっとして」
黙って見つめていた私を不思議そうに見返す翠の瞳。
変わったものだ、と思う。
以前の彼は人と関わる術を知らず、ただ苛々と反発を繰り返すばかりだった。
彼を変えたのは、あまりにも重すぎた自らの罪。
「・・・なんでもありませんよ」
いつも通りの笑みを顔に貼り付けて、少し疲れているんでしょうか。よる年波には敵いませんねぇ。と続けると、からかわれたと思ったのか顔を赤らめ憤慨する。
まともに取り合わないこちらに業を煮やして、向かう先は頼りになる幼馴染。
「ガイー、ジェイドがまた俺のことからかうー!」
「旦那ぁ、ルークをからかうのもほどほどにしてやってくださいよ」
「嫌ですねぇ、からかうなんて人聞きの悪い。そんなに私を悪者にしたいんですか?」
年寄りをいじめるなんてなんてひどい、と泣きまねをすれば、女性陣から苦笑がもれる。
納得いかない様子だった彼も、気づけば周りと一緒に笑って。
いつもどおりの日常。
誰もが皆いつもどおり。
彼は、もうすぐ、いなくなるのに。
この世界を救う尊い犠牲となって。
そうでなくても、音素の乖離によって。
それでも彼は笑っている。
笑って、世界のために消えることを選ぶ。
彼にそうさせるのは、罪の意識やレプリカという事実や彼のかわりに失われるだろうたくさんの命で。
けれど、それがなんだというのだろう。
彼が生まれたのも、彼の犯した罪も、これから起こる未来もすべて、彼一人のせいではないのに。
「ジェイドーほらいくぞー」
そういってまた笑う。
俺は大丈夫、心配しないで、そう言うように。
ルーク、あなたは変わるべきではなかった。
変わらなければ、きっと、世界のために死なずにすんだ。
あなたを裏切った世界のために、なんて。

『あなたは世界を信じるべきではなかった。』
そう言って私はまた悔いるのだろう。
きっとその世界にあなたはいない。



06/5/7
あなたとふたり、埋もれる世界のための五つの絆/お題配布元:遙彼方