白昼夢

ああ、ガイですか。
わざわざ来てくれなくてもよかったんですよ。
あなたも忙しいでしょうし。
周りから、死霊使いが倒れるとは天変地異の前触れか、すわ鬼の霍乱か、とうるさく言われましたよ。
まったく人をなんだと思っているのか。
・・・・・なんです、その顔は。
私だって病気の一つくらいしますよ。
私も、年をとりましたかねぇ・・・・・
・・・・・最近、夢を見るんです。
この病室に、あの子が・・・・・ルークが来てくれる、夢を。
毎日毎日、あの頃のままのルークがこの場所に。
・・・・・夢です。
ルークが、今、ここにいるはずがないと、私は他の誰よりも理解している。
それでも、私は、ルークに会うことの出来るそのひと時を求めてやまない。
自分がこんなに弱い人間だとは、思ってもいませんでした。
・・・・・・・・・・
ガイ、あなたは、私が壊れてしまったのだと思いますか。



からっと戸をあける軽い音に、まどろんでいたジェイドの意識がゆっくりと浮上する。
病室の窓から差し込む昼のやわらかい陽射しが、閉じていた目にひどく眩しい。
戸の方向へ視線を向けようと体を動かすと、自然ぎしりとベットがきしんだ。
ぼやけた視界に、今入ってきただろう人の姿。
光に慣れない目では、まだ顔の判別もできない。
それでも、ジェイドは近付いてくる人影に向かってやわらかく微笑んだ。
手を伸ばして触れるのは、指どおりの良い赤い髪。
光を反射してきらきらと光るガラス玉の瞳は翠色。
頬へと移動した手のひらに、そっと重ねられる手は少し熱い。
ゆっくりと微笑み返すその表情も、ジェイドの記憶そのままで。
確かめるように、重ねられた手を自らの手の中に握る。
遠慮がちに、壊れ物を扱うようにそっと力を込めたジェイドに、ルークはクスクスと笑った。
握られた手にもう一方の手を重ねて、逆にぎゅっとジェイドの手を握りしめて。
まっすぐとジェイドの瞳を見つめて笑った。
ああ、なんて幸せな夢だろう、とジェイドは思う。
手のひらから伝わる温度は温かく、まるでこれが現実なのではないかと錯覚しそうになる。
どこまでも精密に再現する、無駄なまでに有能な記憶力が呪わしいほど。
残酷なほどに、幸せな、夢。
ぐらり、と襲ってきた眠気にジェイドの意思とは別にまぶたが落ちる。
幸せな時間の終わりは、いつも唐突だ。
まだ、あの子を見ていたいのに。
目覚めたくなど、ないのに。
「・・・・・いかないでください」
朦朧とした意識で、ジェイドは願望を口にする。
目覚めた時、そこにルークがいないことは理解しているけれど。
「そばに、いて、ください・・・・・」
あまりにもらしくない、弱々しい切望の声音。
これは夢だ、夢なのだから。
「大丈夫、俺は、ここにいるよ」
優しく、ゆっくりと響く、ルークの声。
ああ、これは、なんて。
ぷつり、とジェイドの意識が闇におちる。
暖かな手のひらの温度は、最後まで消えることはなかった。



・・・・・ああ、ガイ、待っててくれたのか。
別によかったのに。
無理なんかしてないよ。
本当だって、そんな顔するなよ。
・・・・・ありがとう。
でも、気にしないでくれ。
だって、俺、ひどい奴なんだから。
はは、俺、ジェイドが俺のことを夢だと思ってるのが嬉しいんだ。
だって、ジェイドがああなったのは、俺のせいだろう。
俺が帰ってくることを願って、その可能性がないことに絶望して。
あんなに強かったジェイドが、俺のせいで弱くなった。
それが、ジェイドが俺のことを想ってくれている印みたいで、嬉しい。
ううん、嬉しいなんて言葉じゃ足りない。
なんて言えばいいのかな。
身体中が震えて、心が直に揺さぶられるみたいだ。
俺のせいで弱くなったジェイドに、こんなに喜んでる。
ほら、俺、ひどいやつだろう。
・・・・・・・・・・
なあ、ガイ、おまえは俺が壊れてしまったんだと思うか



07/3/10