嘘からはじまったこれが、
すきだよーって言う。
もう何度も何度も、たわむれに口にした言葉。
途端、返ってくる心底嫌そうな顔。
「うるさい、変態ワイン野郎」
容赦のない罵声も、もう慣れたもの。
ここで赤くなるとかさー、そういうかわいい展開はないわけ?
めげずにもう一回。
今度は少し真面目に、好きだよ。
「黙れ」
うわーこっち見てくれさえしないよ。
流石にお兄さん傷ついちゃう・・・
「きもい」
・・・泣きまねしただけなのに・・・本気で泣いちゃうぞ?
じっとイギリスの横顔を見る。
ほんの少しの沈黙、それから。
「・・・好きだ」
ふっと、目があった。
言ったのはこちらのはずなのに、何故かどきりと心臓が跳ねる。
イギリスの口の端がほんのすこしだけ上がって。
「嘘つき」
「―――」
RRRRRRRRR
突然の呼び出し音。
バッとイギリスが駆け出す。
「―――はいっっ!!!」
もぎ取るように受話器を取って、威勢のよすぎる返事。
・・・顔、真っ赤。
大方、電話の相手にからかわれでもしたんだろうな。
言い返す言葉は早口すぎて聞き取れない。
後ろ手に扉を閉める、パタンという小さな音とともにイギリスの姿は見えなくなった。
「あーあ・・・」
瞼の裏に焼きついた、幸せそうな笑顔。
『嘘つき』
「ほんとにね」
好きだよ、イギリス。
嘘のまま、終われば良かったのに。
「君は実に馬鹿だね」
電話の相手は心底、といった声音でそう言った。
普段なら、キレて受話器を叩きつけてやるところだ。
そうしなかったのは(むしろできなかったのは)、的外れなことばかり言うこの元弟の言葉が、珍しく的を射ていたから。
「うるせぇ・・・」
絞り出した声が、我ながら情けないと思う。
「別に俺は、君たちがどうしようと関係ないけど」
受話器の向こうの声は、もぐもぐとくぐもって聞こえにくい。
だから、人と喋るときに物を食べるのはやめろと何度言えば。
「君は、本当にそれでいいのかい?」
・・・そんなこと、自分が一番思ってる。
背にした扉の向こうにいる相手との関係。
腐れ縁、けんか相手、運命共同国。
海を挟んだ隣国との関係は、そういうもの。
好きだ、愛してる、など、フランスにとっては単なるからかいの延長だ、と長い付き合いでわかっている。
それなのに。
『・・・好きだ』
時折、ひどく真剣な目をして言うものだから。
誤解をしそうになる。
眩暈を起こしそうなほどに、甘い勘違いを。
「・・・いいんだよ」
結論はいつだって同じだ。
腐れ縁、けんか相手、運命共同国。
フランスとの関係は、そういうもの。
・・・そういうもの、でなければならない。
「・・・君は、実に馬鹿だ」
溜息のように、落とされる声。
ああ、本当に、な。
好きだ、と一言言うことができれば、この関係は変わるのだろうか。
好きだ、と言われる度に感じる、この身を切るような痛みも消えるのだろうか。
それでも。
この関係を失うことに比べれば。
「死んでも言えない」
―――愛しているなど。
イベント無料配布:08/10/19
サイト掲載:09/10/05
淆々五題 お題配布元/群青三メートル手前