それとも、それとも、それとも。

ピンポーンと来客を知らせる音がする。
「あ?」
予想外の音に、イギリスは手元の縫い針に集中していた視線を上げた。
今日は一日オフで、来客の予定などはじめからない。
だからこそ、こうして一人ゆったりと刺繍をしていたというのに。
「・・・まあ、いいか」
思い至った来客の顔に、イギリスはあっさり決断を下す。
すると、まるでそれが聞こえたかのように、ピンピンピンポーンッ!と連続して呼び鈴が鳴らされた。
「・・・っち!」
鳴り止まない騒音に、イギリスは盛大に舌打ちする。
こんなことをするようなやつ、一人しか思い当たらない。
「うっせーんだよ!このクソ髭!!!」
玄関の前に立っているだろう人物に何の配慮もせず、思い切りドアを開く。
罵倒された相手は、それを予測していたように、ほんの少し距離をあけた場所に立っていた。
「ちょっと、坊ちゃん、ドア壊れるよー」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたフランスに、イギリスはさらに眉間のしわを深めた。
余裕たっぷりのその態度に、イギリスの機嫌が急降下していく。
「帰れ」
「待って待ってー」
扉を閉めるイギリスを、フランスはこれまた余裕の動きで引き留める。
扉の隙間から体を入れこんで、するりと玄関の内へ。
「もうちょっと歓迎してくれたらどうなの」
「うっさい!ていうか、人に手間かけさせんな」
侵入を許してしまったことに舌打ちをしながら、イギリスは、いつも勝手に入ってくるくせに、と文句を付け加えた。
「ほら、たまには、お出迎えってのも新婚さんみたいでいいかなーなんて・・・」
「よし、わかった。フックか?アッパーか?それとも、ストレート?」
てへ、と効果音がつきそうな様子で笑うフランスに、イギリスは固く握ったこぶしを突き上げて見せた。
恐ろしく威圧感のある笑顔に、カンベンシテクダサイ・・・と、フランスはあっけなく白旗をあげる。
「もー、乗ってくれたっていいじゃん・・・」
「んなの、まどろっこしーだろうが」
めそめそと泣きまねをするフランスに、イギリスはフンッと鼻を鳴らした。
「大体」
そこで、イギリスは一端言葉を切る。
「答えが決まってる質問なんかつまんねぇだろ」
そう言って、イギリスはフランスに向けて挑発的に笑んで見せた。
俺以外の何を選ぶ気だ?
そう言ってくるようなイギリスの視線に、フランスは一瞬ぽかんと口を開けた。
それから、口元を笑みの形に歪ませて、イギリスへと近づいていく。
お互いを見つめる視線はそのままに、フランスはイギリスの身体を引き寄せた。
「・・・・・・ほんっとお前ってサイコー」
「そりゃどーも」
唇が微かに触れ合う程の距離で、フランスが笑い混じりに言う。
イギリスも、それにニヤリと笑みを返して、噛みつくようなキスをしかけた。


イベント無料配布:09/06/21
サイト掲載:09/07/28