あなたの答え、あなたが答え

やさしくやさしく、ゆっくりとなでる手が心地いい。
毛並みを整えるように規則的に動きながら、ときたまそれに逆らうように変わる動きがくすぐったい。
アリスの膝に身体を預けて、うっとりとその胸に顔を埋める。
「きもちいい、ペーター?」
からかうようなアリスの声がすぐ耳元。
すごく気持ちいいです、と返せば、楽しそうな笑い声がはじけた。
最近のアリスのお気に入りは、こうやって僕をなでること。
正確に言うと、ウサギ姿の僕を、だけれど。
女の子の一言でくくってしまうにはアリスの素晴らしさに対して失礼だけど、ご多分にもれず、アリスもかわいいものは好きらしい。
ウサギ姿でいるうちは、ぱあっと赤く頬を染めて歓迎してくれる。
「アリス、ウサギは好きですか?」
「かわいいものは嫌いじゃないわ」
上機嫌なアリスは、やはり楽しそうにそう答える。
「でもね、ウサギ耳の男は好きじゃないの」
それは何度も繰り返された言葉で、こちらとしてはもうそんなにダメージを受けないセリフだけれど、律儀にしょんぼりとしてあげたらアリスはさらに満足そうに笑った。
背中から首まわりへと移動した手に、摺りつくように顔を寄せる。
ウサギは好き、ウサギ耳の男は嫌い。
『それじゃあ、僕のことは、好きですか?』
尋ねてしまいたい気持ちはある。
けしてその答が望まない方向でないだろうという自信も。
けれど。
「今は、聞かないでおいてあげます」
「…?何か言った、ペーター?」
吐息ほどの音量でぽつりと漏らした声に、アリスがいぶかしんで尋ねてきた。
それに、いいえ?と笑って答える。
(僕はやさしいウサギさんですから)
ごまかすように、好きですよアリス、と言ったら、そう、とそっけない返事。
好きです、好きです、ともう口癖になったセリフを、何度も何度も繰り返す。
アリスは聞こえないふりで、ただ僕の背中をなでていった。



07/8/4
沁々三十題.26 お題配布元/群青三メートル手前