新しい年に、祈る
しんと冷えた、けれどどこか浮かれた空気が漂う街角。
色とりどりの晴れ着や、華やかな笛の音が年の始めを知らせてくる。
そんな中、もうすっかり覚えてしまった先輩の家までの道をゆっくり歩く。
そういえば、僕が始めて先輩を誘ったのが去年の初詣だったっけ、なんて思い出しながら。
あれから、何回もデートと呼べるものを重ねて。
それでも、僕と先輩の距離は変わらない。
変わらないまま、先輩は一足先に卒業していく。
「はあ…」
吐き出した息が白く染まる。
先輩の家まであと少し。
今年も先輩は晴れ着を着て待っていてくれるのかな。
きっちりと着物を着込んだ先輩は、普段よりもずっと大人っぽくて―――きれいで。
そんな先輩の隣にいるのは、嬉しくてどきどきして、それから。
それよりもずっと、焦るんだ。
素直で、からかいやすくて、とても年上なんて思えないくせに。
やっぱり一つ年上の女の人なんだって、思い知らされるから。
『もうすぐ卒業なんだよね…』
そう言って遠い所を見るような先輩に、こっちがどんなに不安な思いをしてるか知ってるのかな。
その目を無理やりこっちに向かせてそのまま閉じ込めてしまいたいとか。
そんなことできるわけないってあきらめている気持ちとか。
不安がぐちゃぐちゃに混ざり合って、胸の奥に重く重くのしかかる。
『先輩、僕どーっしてもボーリングに行きたくなっちゃって…』
『空中庭園に行かない?きっと気分転換になるよ』
もてあました不安を吐き出すように、僕は先輩にわがままを言う。
受験勉強で忙しいことは、傍で見てる自分が一番知ってるくせに。
それでも。
先輩は笑って、僕のわがままにつきあってくれるから。
僕はまた、それに落ち込むんだ。
「先輩が留年してくれればいいのに…」
ああ、だけどそれはないなと、自分の呟きに即返答する。
僕の好きになった人は、勉強もスポーツもあらゆることをソツなくこなす。
(…普段はあんなにオトボケなのにね)
自分の思ったことに思わずクスッと笑って、下を向いていた顔を前へ上げる。
目の前に先輩の家の玄関。
この向こうで、きっと先輩が待っててくれてる。
先輩と二人、今年は何を願おう。
叶いそうも無いことでも、それでも、今年もまた願ってみようか。
これからも、先輩と一緒にいられるように。
そうできる勇気を自分にください。