「痛い?」
ふわりと、やさしくかけられた声に、イギリスの意識がゆっくりと浮上していく。
うなだれた首筋に感じるあたたかな手。
その手にうながされるまま、目の前に立つ人影を仰ぎ見る。
「痛い?イギリス」
薄暗闇の中、ぼんやりとぶれた視界に映るスペインの顔。
イントネーションの違いか、この男の言葉は不思議にやさしく響く。
けれど、その声音も浮かんだ笑顔も、今の状況にはあまりに不自然で。
「なぁ?イギリス」
「…ッ!」
やさしげな声と裏腹に強引な力で、スペインは無理矢理イギリスの身体を引き寄せた。
瞬間、ギシリと何かが軋む音。
吊しあげられた腕に、押さえ付けられた足に、イギリスを拘束する縄が容赦なく食い込んでいく。
「ぁ…ッ!」
これまでに幾度も繰り返された痛みに、また意識が飛びそうになる。
縛られた箇所は、何度とない責めに赤黒く腫れていて。
イギリスは、全身に走る激痛に、歯を食いしばって耐えた。
「泣かへんの?」
痛みを与えた当人が、変わらぬ笑みを浮かべたままに問う。
執拗に触れようとする手を振り払いたくても、長い拘束に疲弊した身体は言うことを聞かない。
スペインの指が、微かに濡れたイギリスの目尻をゆっくりとなぞって。
「えらいなぁ」
まるで親が子を誉めるような。
この場に、この状況に、決してそぐわないそれは、ただただ恐怖を煽るものでしかなく。
ぞわりと背筋を走った悪感に、イギリスの唇は声もなくわなないた。
「まぁ…」
顔を覗きこむように、スペインはイギリスの目の前にしゃがみこむ。
頬に寄せられた手に、視線をそらすことすら許されず。
「泣いたって許さへんけど」
静かに、穏やかに、スペインが笑う。
悲鳴になり損ねた歪な音が、イギリスの喉奥に消えた。


07/12/25