ききたかったのはその言葉
「ほら・・・」
どこかきまり悪そうな声とともに、ずいと差し出された大輪の花束。
瞬間辺りを満たした薔薇の濃い香りに、オーストリアは軽く目を見開いた。
「・・・なんです?」
「・・・見てわからないか?」
ドイツの憮然とした声に、改めてまじまじと花束を見る。
それはそれは見事な大輪の薔薇の花。
目の前に差し出されているからには、これは自分へ、ということでいいのだろう。
今日の日付もあわせて考えれば、おそらくはクリスマスプレゼント。
クリスマスの贈り物に花束とは、彼にしては中々気がきいている。
美しい薔薇を前につらつらと続く思考。
しかし、オーストリアは自分が一番重要なことを意図的に避けていることに気づいていた。
ゆっくりと、覚悟を決めるように、視線を薔薇から外す。
緊張したようにこちらを見つめるドイツが目の前。
お互いがお互いの心中を探り合うように、二つの視線が絡んだ。
「薔薇、ですね・・・」
「薔薇、だな・・・」
「赤く見えるのですが・・・」
「ああ、赤いな・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
変に張り詰めた空気の中、さらに重い沈黙が落ちる。
そんな二人の間で、強く存在を主張する赤い薔薇の花。
ただの花なら、一言礼を言ってありがたく受け取るだけだ。
結構な品をいただいた礼に、一曲披露するのでもいい。
けれど。
「どうして・・・」
「ん?」
「どうして、その花なんです?」
「あー・・・言わなくてもわかるだろう」
そう言って、ドイツは赤らんだ頬を隠すように口元を手で覆った。
赤い薔薇。
その花にこめられた意味。
考えずともわかりきった答えに、改めてたどり着く。
オーストリアの顔にかぁっと勢いよく血の気が走った。
「は、恥ずかしい人ですね!」
「言うな!俺が一番そう思っているんだ!」
オーストリアの言葉を受けて、ドイツの顔にさらに赤みが増した。
花束を握った手が、恥ずかしさからかぶるぶると震えている。
「ああ!そんなに握ったら花が折れてしまいますよ!」
「す、すまん」
無体な目にあっている花束を見て、反射的にオーストリアはドイツからそれを奪う。
「まったく貴方は・・・もう少し丁寧な扱いを覚えなさい」
ぶちぶちと説教しながら、少し乱れた花束を丁寧に直していく。
ドイツはただただ小さくなって、しどろもどろに謝った。
「・・・ドイツ」
「なんだ?」
優しく薔薇を整えながら、オーストリアは口を開く。
すっかり元通りとなった花を手に、視線をドイツへと向けた。
花束を間に、まっすぐと向かい合う。
真剣な視線が二つ、ゆっくりと重なった。
「言って、いただけませんか」
「・・・・・」
「聞きたいんです」
再び、二人の間に落ちる沈黙。
何を、と聞き返す声はなかった。
最初から、二人ともその答えを知っていたのだから。
すい、とドイツが静かに動く。
二人の距離がこれ以上ないほどに縮まって。
「―――愛してる」
耳元に落ちた低い声音に、オーストリアは満ち足りたように微笑んだ。